美人すぎる唎酒師 野口万紀子の日本酒のいろは
第四十六話 熟成日本酒って、ぶっちゃけどうなの?

きき酒師
野口 万紀子

前回は日本酒の賞味期限についてご紹介しましたが、その中でもお話ししたように「日本酒は開栓したらできるだけ早く飲みきろう!」と、口を酸っぱくしてお伝えしてきました。
日本酒は搾りたてが美味しいという考え方が一般的ですが、寝かせると一体どうなるのか?ぶっちゃけ美味しいのか?

今回は、熟成日本酒についてお話ししていきたいと思います。



かつて熟成日本酒は一般的だった!


ワインやウィスキーなどは寝かせるほどに美味しくなるとか、いい年のヴィンテージともなると高価な値打ちがついたりして、財産のひとつのように捉えられています。

最近でこそ少しずつプレミアムな日本酒が登場してきましたが、価格が安いままで酒蔵への還元が厳しい現状があるのは、地元に根付いた商売である特性から特約店との関係性が強く、新規の展開先を構築しにくいマーケットであることが否めません。

日本酒は搾りたてがイチバン!という風潮がはじまったのは意外にも最近の話で、磨くほど美味しいと認識されていた吟醸酒が流行した昭和の時代くらいからです。

それまでの日本酒は霞(かすみ)と言われる濁りのあるものや、2年ほど寝かせたお酒がスタンダードでしたし、江戸時代には『5年ほど寝かした日本酒は香りも豊かで、味もしっかりして非常に美味しい』と文献に記載が残っているほどです。

少し前までは、スタンダードな日本酒が大半を占めていた日本酒業界ですが、コロナ禍に突入してからは、少量でも個性のあるお酒づくりにトライしよう!という、酒蔵が増え、熟成日本酒の面白さが注目されています

他のお酒のようにヴィンテージの商品の価値が存在したりすることが多くないこともあって、日本酒の熟成と聞くと「ぶっちゃけ美味しいの?」と思う人が多いのではないでしょうか。

ここからは、日本酒の熟成についてよくある疑問を解説していきたいと思います。

Q.お腹を壊したりしないの?

A.アルコール度数の高さから殺菌作用が高いため腐敗することなないので、日本酒に賞味期限はありません。製造年月日の記載はあってもいつまでに飲まなくてはいけないといった表示義務もありません。よって風味に変化は生じますが、未開封未開栓であれば、お腹を壊すことはありません

Q.いつまで保存可能なの?

A.決まった期間は存在しません。ただし、開栓後は雑菌が入りやすい状態になっているので、できるだけ早く飲み切るようにしましょう。飲まないほうが良い目安としては、酸っぱいような匂いがしたり、色が濁っている場合、沈殿物が多く見られる場合などです。しかし、飲んでしまったからといって深刻な問題になることは滅多にありません。

Q.寝かせれば寝かせるほど美味しくなるの?

A.熟成の速さや味の変化の仕方は、どのような成分で造られたのか、また、どのような環境で保存されたのかによって異なります。寝かせる期間が長いほど良いというわけではなく、味のバランスが崩れてしまうことも。

Q.お酢になってしまうんじゃないの?

A.お酢は酒の酢酸発酵から熟成させたものです。酢酸は、アルコール度数が10%以上の環境では生きられないので、お酢に変わってしまうことはありません

Q.みりんとの違いは?

A.製造工程は麹をつくるところまで同じですが、日本酒のようにアルコール発酵は起こりません。メイラード反応が起きるので、日本酒のような香ばしい香りが出ます。


熟成酒に起こっている変化とは何か?


お酒の熟成とは、液体中の成分の化学変化現象のことです。精密にいうと、日本酒はお酒が絞られたその瞬間から熟成が始まっています

特に香りの高いものは、瓶に詰めた後で熟成させることが多いので、瓶詰め後出荷するタイミングで製品として完成したものと扱われているとも言えます。

つまり、製造年月日(瓶詰めした日)が必ずしもその日に造られたものとも言えないのです。このことからも、日本酒がたった数ヶ月の間に飲めなくなるわけがないことがわかると思います。

熟成は特殊な手法なのではなく、いわば酒造りの仕上げでもあり、日本酒の完成度を更に高めてくれるものでもあります。絞った後の熟成も計算に入れた上で、日本酒造りは考えられているのです。

熟成のポイントは酵素です。(酵母ではありません)酵素はタンパク質からできていて、それぞれ決まった成分を分解することができるのですが、温度が65度以上になると機能停止してしまいます。そのため、火入れまでの生の期間が大事になってきます。

搾りたてすぐの日本酒は、プチプチとした酸が効いたガス感や吟醸香などが特徴。どんな酵母を使ったのか、精米歩合の高低など、スペックでその味が決定づけられてしまいます。

時間の経過とともに、バナナやリンゴのような酵母由来の香りは減少して、くどさや鋭さがとれて丸みのある味わいに変化します。苦味も増していきますが、これもまた深い味わいを引き出すカギとなってくれるので、重要な役割を持っています。

それはまるで人間と同じように、生まれた瞬間から成長が進み老化が続くように、お酒も熟成が進んで変化して行くのです。素敵に変化していくものもあれば、イマイチな場合も。人と同じなんですね。


熟成の進み方の違いは?

熟成の仕方は一定ではなく、環境や条件によって変化しますが、大きく3つのポイントがあります。


1)長い時間で高湿度の環境
みりんの香りにも含まれている独特な香りの正体は『メイラード反応』と呼ばれるアミノ酸と糖が化合する化学反応です。反応の進み具合は【寝かせる時間×湿度】によって変化して、お魚やお肉などを焼くときにも発生する、直感的に美味しそう!と感じさせる香ばしさを発します。強い香りになると、ソトロンという紹興酒のような香りも感じられます。

2)アミノ酸の多さ
アミノ酸の含有量が多ければ多いほど熟成は早く進みます。麹の割合を非常に高くして仕込む全麹仕込みという手法で、甘味を強く打ち出し、アミノ酸の数値を高めることで、良いパフォーマンスの熟成を実現したりしています

3)空気に触れる量
通気性の良いタンクなどを使って空気に触れる面が多いほど、熟成は早く進みます。
熟成酒によく使われる木の樽には有機酸が住み着いているので、時間が経つにつれお酒に染み出し、熟成を促進してくれるのです。木の香り付けという意味だけではなく、より短期間に狙った味に仕上げることができるのです

このように、熟成はいくつかの要因によってそのスピードが変化することがわかっていますが、仕上がりは絶対的なものではなく、底に沈んだ澱に旨味を持っていかれ、水っぽく失敗してしまうこともあるのが事実です。

イメージ通りの味に着地させるのには、運とテクニックが必要になります。

日本酒の熟成に適した場所は、紫外線の影響を受けることなく涼しい気温が保てる空間です。洞窟など、温度差が緩やかな自然の冷暗所で熟成させると、柔らかくキレイな味わいにすることができます。

最近では、様々な場所で日本酒の熟成が展開されていて、中には雪室や海底熟成などできるだけ自然の環境の中で、ストレスの少ない熟成を目指す酒蔵が増えています。

一方で、繊細な温度管理をしないと保てないお酒から脱却し、常温での熟成でさらに味わい深い日本酒に導く酒蔵も増えています。
そういった意味でも、SDGsを意識した酒造りはより注目されてきています


~最後に~


日本酒の熟成と劣化は大きな違いがあって、熟成はお酒造りの仕上げとも言える大事な工程の一つです。最近、私が試したベストマッチなペアリングはガトーショコラと熟成日本酒の組み合わせ。カレーなどスパイシーな料理にも合うので、お食事に寄り添ってくれます。

ぜひ、いつものお食事に熟成日本酒を組み合わせてみてくださいね♡︎

素敵な日本酒ライフを♡︎
文:野口 万紀子

プロフィール

野口 万紀子
株式会社 5 TOKYO 代表取締役
きき酒師 / クリエイティブディレクター

東京都目黒区生まれ。女子美術短期大学卒業後、モデル、スカウトにより芸能活動を始め、8年ほどレースクィーン・モデル業を務める。外資系仏ラグジュアリーブランド、融資コンサル会社等での経験を経てた後、ライター業へ転身。日本のおもてなしについて興味を持つようになり、パーティーコーディネートのトータルプロデュースについて学び、きき酒師の資格を取得。2017年、株式会社 5 TOKYOを設立。現在では『日本酒 × ファッション・アート・伝統文化」といった、日本文化の新しい楽しみ方をプロデュースしている。日本酒イベントの企画運営や飲食店における日本酒コーディネート、セミナーや講演会への出演、執筆などを中心に活動中。最近ではTV、ラジオ、雑誌など様々なメディアにも多く出演している。

<取得資格>
SSI認定 きき酒師 (認定番号 No.042210)
SSI認定 日本酒ナビゲーター (認定番号 No.9338)
WSET LEVEL1 AWARD IN SAKE (認定番号 No.201039812417)
日本野菜ソムリエ協会認定 パーティースタイリスト
公益社団法人 神奈川県食品衛生協会認定 食品衛生責任者

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ライター紹介

アーティスト
上宮 三佳(かみやみか)

群馬県出身。ぐんまの地酒大使
Piano&Vocalユニット「Sunray in Rain(サンレイ イン レイン)」のVocal、モデル、ライターとして活動中。日本酒好きが高じてユニットオリジナル曲「日本酒のうた ~二つで一つだね~」をリリース。

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きき酒師
野⼝ 万紀⼦

株式会社 5 TOKYO 代表取締役
きき酒師、クリエイティブディレクター。『日本酒 × ファッション・アート・伝統文化」といった、日本文化の新しい楽しみ方をプロデュースしている。

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ミツワネットショップ
店長荒井

ミツワネットショップ店長
有限会社ミツワ酒販 代表取締役
創業以来四十余年、食の安全、美食へのこだわりをモットーに、関東中心に約700軒の小売店様への酒類、食品類の卸業を行っている。