美人すぎる唎酒師 野口万紀子の日本酒のいろは
第四十三話 「初心者が飲みやすいお酒」の正解

きき酒師
野口 万紀子

“日本酒初心者でも飲みやすいお酒“ってどんなものだと思いますか?
SNS上でもこの手のキーワードはよく上がっているし、私自身もよく聞かれる質問であります。
一般的によく言われている“初心者でも飲みやすいお酒“の特徴としては

・癖がない
・ボトルがおしゃれ
・スパークリングで甘め
・綺麗で香りが上品
・さっぱりとしている
・軽い口当たり
・フルーティ


などが挙げられることが多いですよね。

今回は、日本酒ビギナーにおすすめすべき日本酒についてや“お酒を唎く“ということについて最近感じたことについてお話ししたいと思います。



初心者が飲みやすいお酒」の正解


日本酒苦手な人は、先輩に罰ゲームで飲まされた!などの昭和的なエピソードをトラウマ化してしまっている人も多いです
今では、日本酒=野口と認識していただけるほど日本酒好きになりましたが、こんな私も実は昔から日本酒を飲んでいた訳ではないのです。

こんなことを言うと、唎酒師のくせにどうんなんだ!とお叱りを受けるかもしれないとビビって、今まであまり口外してきませんでしたが、以前はめっきりワイン派でした。
20代の頃は、仲間とワイワイ居酒屋で飲むより、大人の人が来るようなオーセンティックなバーで、ワインかサイドカーとかXYZとか、そんなお酒を飲んでいました。
その頃のあだ名は『魔女』いつも黒い服を着て、同世代の友達は滅多にこなさそうなお店を自分の家のようにしていました。そういう一つのスタイルみたいなものがカッコイイと思っていたのだと思います。今思うと暗い20代ですね。

そんな私が日本酒を飲むようになったきっかけは、渋谷の『魚真』というお魚料理のお店でした
かなり昔から渋谷にある有名なお魚屋さんで、カウンターもテーブル席もひしめき合って、いつも盛況。

この頃の私はお魚料理=白ワイン、くらいのど素人的な知識しかなく

「魚には日本酒だよ!」
と進めてくれた友達にも、

「日本酒はコワイ〜!」
と拒絶していたのです。

そう。
みんな最初、この感覚ありませんでしたか??

『日本酒はコワイ!!』

なぜ日本酒はコワイのか。
まずテキーラみたいなカーッと強いアルコール感や、悪酔いするといったイメージが原因ではないでしょうか
飲まされ方が罰ゲーム的なノリだったり、そういった飲むときの背景も関係してくると思います。

この時『魚真』で飲んだのは新潟県の【越野景虎】でした。
しっかりと深みがあって、キレが良い、東北っぽいお酒で有名です

「日本酒なんてコワイよ〜、、」

とビビりながら恐る恐る口にするも、ワインとは違うお米独特の香りに警戒心が湧き出して、ドキドキ。。

「でも、なんだかコレ嫌いじゃない。美味しいの基準がまだ確立されていないので、わからないけど、嫌じゃない!」

そう思えた初めての日本酒だったのです。
それから魚料理のお店行く時はもちろん、景虎を見つけると得意げに

「景虎景虎〜!」

と騒いで、必ず注文していました。

今考えれば、越野景虎はいわゆる超辛口タイプと言われる日本酒で、男山なんかと同じようなキツめの飲み応え、キレ感、パワーのお酒です。
決して、女性らしい日本酒とは言えないのですが、私の日本酒デビューはこれで正解だったのです
なぜなら、当時は甘ったるいフルーティーなお酒が超絶苦手だったから

私のワインの好みを知っていた友人は、それをわかってくれていて、甘くない日本酒をデビュー酒として選んでくれました。

これは、どんな人にも当てはまるわけではないと思います。
甘いのが好きな人にとっては景虎はパンチありすぎると思うし、さっぱりが好きでもフレッシュで旨味や厚みがない味が好きな人にとっても、重すぎるかもしれません

日本酒初心者にはクセのないお酒を、とか、フルーティーでジュースっぽいものを、とか言われていますが、私が考える日本酒ビギナーに向けてのお酒選びで大切なことは

【その人が苦手な要素がないお酒】
これに尽きると思います。

美味しいポイントがまだ確立されていないビギナーさんにとって、一番気になるのは『嫌じゃないこと』だから。

この日私が、フルーティーで甘い日本酒を出されていたら、きっと
「日本酒無理〜!」
となっていたと思うんです。

飲みやすいと思うものは、本当にさまざま。
自分がいいと思っても、その人にとっては美味しくない!と感じることもあります。

日本酒デビューの際には
【どんな味わいや香りが苦手か?】

をしっかり聞いておくことが何より重要!

一発目から「美味しい〜!」を狙って、大外れするのだけは回避すべきです。
「あれ?これなら飲める!」という、嫌なポイントが少ないお酒なら、また飲んでみようって思ってもらえます。

日本酒の美味しいは幅が広い!!
でも、苦手な味はピンポイントで刺さってくるので、この一回で日本酒苦手〜!と言われてしまうことすらあり得るのです。
好きの伸び代を無駄にしないように、初心者の人には、これなら嫌じゃないと思える日本酒を、是非提案してあげてください。


「お酒を唎く」の意味

唎酒師の資格を取った時にしきりに言われていた「日本酒は読み物ではなく、飲み物です」という言葉について、最近感じることがありました。

唎き酒の勉強をする際には、味の分析にあたって、ジャンル分けをしたりさまざまな言葉で味の表現方法を学びます。
ソムリエも同じですが、その表現についてはかなり文学的な能力が問われる部分も多いと感じています。

お酒をたくさん飲んで、どう感じるのか自分なりに違いが判別できたとしても、それを「さっぱり」「ふくよか」など、シンプルな言葉だけで表現していくのは非常にナンセンスです。

実際には、小説などの情緒的な表現が書かれている本をたくさん読んだりして、表現方法を学ぶとよいのですが、そもそもお酒の味わいを的確な言葉や数値で表現する必要があるのか

お酒は嗜好品であり、その魅力やスペックは感じ方も人それぞれで、唎酒師が言っていることが正解というわけでもない。
私にとっては、好きな人の魅力を1~10パターンくらいのジャンル別に分けるような感覚で、数値化するなら年収や身長なんかでレベルを伝えるのと同じように感じます。自分が好きなものを、PCのスペックのように表現することはできないなと思ったんです。

私にとって「好き」は共通の数値や言葉ではなく、自分の中に生まれた例えようのない唯一の体験だから。
それは絵画なんかともよく似ていて、解説はあれど、それをそう感じるかは個人の中に無限に広がっていて、それを自分自身で見つけていくことが楽しみだから。

むしろ「私はこれが好き!」という単純な表現の方が、よっぽど「それ飲んでみたい!」と言ってくれる人が私の周りには多かったのです。
このように「日本酒は読み物ではなく飲み物」を自分なりに解釈してきたつもりだったのですが、あることに気がついたのです。


「読むお酒」の本当の楽しみ方

最近は飲食店さんの営業も復活してきて、お店でお酒を飲む人も増えてきました。
私個人的には、以前よりもお家で料理したりする機会がとても増えたこともあって、美味しい日本酒は買ってきて飲む方がお店で飲むよりも断然お得!オンラインで注文することが増えました

そんな中、お酒の選び方に変化がありました。お店の人との会話などからお酒を提案してもらっていたのが、ネット上の情報からお酒を購入するかどうか選ぶようになったこと。

これは実に当たり前のことの様なのですが、最近あらゆる情報が動画化している中で、あることに気がつきました。活字飢えしていることです

これまで日本酒を言葉で表現することはナンセンスだ!と散々言ってきたのですが、これまで人から得ていたお酒の情報が、メディアからへと変化してきて、読み物として活字を追っていく中で「これ飲んでみたいな」というお酒に出会うことが増えたのです。

見ているポイントとしては、味の表現というよりも、エピソード重視
どんな背景で、どんな人が関わって、どんな意図があって造られたのかとか、ストーリーを読んでいくうちに引き込まれていったものを購入しています。

あらゆるものがYou Tubeとかの企画化されている中で、何か活字でないとしっくり響いてこないものがあることを実感。
同じ情報を見るのも動画の様な相手の五感ペースではなく、自分の脳内感覚でインプットして、想像を膨らませることで、よりそのお酒が具体化してイメージできるようになりましたし、その期待感は更に大きくなりました。

これは本当に私個人の感覚なのですが、お酒の楽しみ方は味の追求だけではなく、さまざまなシーズから導き出されるものだと感じました。


~最後に~

お酒は人間関係と似ていて、向き合い方によっては自分をだめにもするし、豊かにもなります
その楽しみ方は、ただ酔うということだけに留まらず、自分なりの視点を持ちながら向き合ってみると、新たな発見がありますよ。

素敵な日本酒ライフを♡︎
文:野口 万紀子

プロフィール

野口 万紀子
株式会社 5 TOKYO 代表取締役
きき酒師 / クリエイティブディレクター

東京都目黒区生まれ。女子美術短期大学卒業後、モデル、スカウトにより芸能活動を始め、8年ほどレースクィーン・モデル業を務める。外資系仏ラグジュアリーブランド、融資コンサル会社等での経験を経てた後、ライター業へ転身。日本のおもてなしについて興味を持つようになり、パーティーコーディネートのトータルプロデュースについて学び、きき酒師の資格を取得。2017年、株式会社 5 TOKYOを設立。現在では『日本酒 × ファッション・アート・伝統文化」といった、日本文化の新しい楽しみ方をプロデュースしている。日本酒イベントの企画運営や飲食店における日本酒コーディネート、セミナーや講演会への出演、執筆などを中心に活動中。最近ではTV、ラジオ、雑誌など様々なメディアにも多く出演している。

<取得資格>
SSI認定 きき酒師 (認定番号 No.042210)
SSI認定 日本酒ナビゲーター (認定番号 No.9338)
WSET LEVEL1 AWARD IN SAKE (認定番号 No.201039812417)
日本野菜ソムリエ協会認定 パーティースタイリスト
公益社団法人 神奈川県食品衛生協会認定 食品衛生責任者

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ライター紹介

アーティスト
上宮 三佳(かみやみか)

群馬県出身。ぐんまの地酒大使
Piano&Vocalユニット「Sunray in Rain(サンレイ イン レイン)」のVocal、モデル、ライターとして活動中。日本酒好きが高じてユニットオリジナル曲「日本酒のうた ~二つで一つだね~」をリリース。

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きき酒師
野⼝ 万紀⼦

株式会社 5 TOKYO 代表取締役
きき酒師、クリエイティブディレクター。『日本酒 × ファッション・アート・伝統文化」といった、日本文化の新しい楽しみ方をプロデュースしている。

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ミツワネットショップ
店長荒井

ミツワネットショップ店長
有限会社ミツワ酒販 代表取締役
創業以来四十余年、食の安全、美食へのこだわりをモットーに、関東中心に約700軒の小売店様への酒類、食品類の卸業を行っている。