美人すぎる唎酒師 野口万紀子の日本酒のいろは
第四十一話 家飲みを充実させよう!選び方編③

きき酒師
野口 万紀子

日本酒のボトルによく見かける「おりがらみ」「無濾過」などの表記ですが、具体的にどんな特徴なのか分かりずらいですよね。
今回は『家飲みを充実させよう!選び方編③』として、日本酒の味の違いに大きく影響する「おり引き」や「火入れ」について解説していきたいと思います。



おり引き・濾過の違い

絞ったばかりの日本酒には、”おり”と呼ばれる細かい固形物が混ざっています。この ”おり”を除去せずにあえて残したものは『おりがらみ』と言って、よりお米の旨味を深く感じられます。生きた酵母が炭酸ガスを発生させるので、微発泡になって爽やかな飲み口になります

“おり“を除く工程が『おり引き』と言って、通常、タンクにある2つの口のうち上側の『上呑』から上澄みだけを取り出しており引きします。さらにもっと細かい”おり“を完全に除去するために行われるのが『濾過』です。お酒に活性炭素を入れて、濾過器のフィルターを通して活性炭素と一緒に不要なものを取り除くという方法が一般的です。

もう一つの方法は、活性炭素を入れないで濾過器にフィルターに通すだけの方法。活性炭素による影響を避けて、細かな”おり”だけを取り除くことが可能で『素濾過』と言います。

『素濾過』も行わないものは『無濾過』となって、日本酒の香味成分がそのままダイレクトに生かされるので、濃醇な味わいになりますよ。対して、濾過したものは、香りが調整されるのですっきりとした味わいになるのが特徴です。

この違いを知っておくだけでも、日本酒選びの際に選びやすくなると思います。

濾過については時代と共に見解が変わってきていて、以前までは欠点とされてきた雑味もあえて残し、お酒の個性として楽しむスタイルが普及してきました。このことによって、おいしいお酒=大吟醸という価値観は絶対的ではなくなってきました。
加水も加熱も濾過もしない絞ったままのお酒を『無濾過生原酒』と呼びますが、酵母や酵素、乳酸菌などが生きています。


火入れの違い

日本酒を低温加熱殺菌することを『火入れ』と言います。お酒の中に残っている麹の酵素や、まだ生きている酵母の働きを止めて、劣化を促進する菌を殺菌する目的で行われる一方で、『火入れ』はお酒の風味を低下させる場合もあるので『生酒』と呼ばれる火入をしない日本酒も存在しています。



火入れのタイミングは貯蔵前と貯蔵後の2回あって、その回数やタイミングによってお酒の名称が変わってきます。

①生酒(本生)・・・火入れ回数0回

火入を全く行わない
▶︎日本酒のフレッシュ感を最も楽しむことができる

②生貯蔵酒・・・・・火入れ回数1回

貯蔵前の火入れを行わず、瓶詰め時に火入れを行う
▶︎火入れをしない状態が貯蔵期間中続くので、やや熟成感がある

③生詰め酒・・・・・火入れ回数1回

貯蔵前に火入れを行い、瓶詰め時の火入れを行わない
▶︎生の中では最もフレッシュ感が落ち着いている

④火入れ・・・・・・火入れ回数2回

65度前後の加熱殺菌によって、貯蔵前と瓶詰め時に火入れをする
▶︎火入れをしているお酒は落ち着いた味わいになる


BYってなに?

日本酒のボトルを見るとよく目にする『BY』の表記ですが、これはBrewery Year(ブリュワリー イヤー)と言って、日本酒業界独自の年度区分です。7月1日から翌年の6月30日までの期間で年度を区切ります。

例えば、令和3年7月1日から令和4年6月30日までの間に造られた日本酒ならば「3BY」「R3BY」と表記されます。

年度内に造られたお酒を新酒、前年度に造られたお酒を古酒と呼びますが、表示に明確な定義はありません。このBYを見ることで、おおよそどのくらい熟成させた日本酒なのかをチェックすることができます


出荷のタイミングによる違い

貯蔵の目的はお酒を熟成させて、酒質を落ち着かせることです。そのため、貯蔵の期間が短ければ、よりフレッシュで若々しい味わいに、貯蔵期間が長くなるほどに味は熟成され、落ち着いた幅のある味わに変化します

現在は、ホーロータンクなどで酒質に影響を与えないタンクで貯蔵されることが多いですが、容器の種類によっても呼び方が異なるものもあります。

日本酒はワインやウィスキーなどと違って、熟成したものがメジャーではなく、ビンテージのお酒を資産の一つとして持つような文化がないことも、日本酒マーケットに影響しているのではないかと、私は考えています。

長期熟成はすればするほど良いというわけではなく、寝かせた後に、必ずおいしいお酒になるという保証はないので、保存におけるコストも大きく、非常に経験値とテクニックを問われることとなります。

最近では、低温熟成や海中熟成など、さまざまな熟成酒も登場して、日本酒の古酒市場に変化が現れています

①しぼりたて(新酒)

新酒の中でも、特に1〜5月ごろに出る、上槽したての日本酒でフレッシュ感が特徴的

②ひやおろし(秋上がり)

春に絞った日本酒を一夏貯蔵し、秋に出荷するもので、フレッシュ感は残しながらも熟成されたバランスのいいお酒

③古酒(長期熟成酒)

基本的には前年度に造られた日本酒のことだが、古酒として出荷されるのは3年、5年、10年と長期熟成させたものが多い


貯蔵容器による違い

お酒をどんな容器で貯蔵しているかも、味わいに変化をもたらします。よく見かけるものとしては以下のものが挙げられます。

①樽酒

杉などでできた木樽で熟成させて、その香りが日本酒にも移って香るのが印象的。奈良県の吉野杉が有名です。出荷時も樽に入っているものは、お祝いの席で鏡開きに使われることもあります

②斗瓶囲い

”斗瓶”と呼ばれる18Lの瓶で貯蔵されるお酒です。醪を詰めた酒袋を吊るして自然にポタポタ滴るお酒を集める「袋吊り」など、手間をかけた手法で絞られていて、綺麗な味わいのものが多いです。「袋吊り」で絞ったお酒は「しずく酒」と呼ばれることもあって、量も少量しか取れないので、多くの酒蔵では新酒鑑評会の出品用だけにこの手法を用います。新鮮な上に上品な味わいなので、生酒の中でも極上品と言われるほどです


~最後に~

濾過や貯蔵方法については、醸造工程の仕上げとして味を決める大事な工程です。お米の種類や酵母だけでなく、どのように絞られているか、どのくらいの期間熟成させているか等にもよって日本酒の味は大きく変化します。さまざまな切り口でお酒の違いを知っておくと、自分好みのお酒を見つけやすくなるので、ぜひマスターしてくださいね。

素敵な日本酒ライフを♡︎
文:野口 万紀子

プロフィール

野口 万紀子
株式会社 5 TOKYO 代表取締役
きき酒師 / クリエイティブディレクター

東京都目黒区生まれ。女子美術短期大学卒業後、モデル、スカウトにより芸能活動を始め、8年ほどレースクィーン・モデル業を務める。外資系仏ラグジュアリーブランド、融資コンサル会社等での経験を経てた後、ライター業へ転身。日本のおもてなしについて興味を持つようになり、パーティーコーディネートのトータルプロデュースについて学び、きき酒師の資格を取得。2017年、株式会社 5 TOKYOを設立。現在では『日本酒 × ファッション・アート・伝統文化」といった、日本文化の新しい楽しみ方をプロデュースしている。日本酒イベントの企画運営や飲食店における日本酒コーディネート、セミナーや講演会への出演、執筆などを中心に活動中。最近ではTV、ラジオ、雑誌など様々なメディアにも多く出演している。

<取得資格>
SSI認定 きき酒師 (認定番号 No.042210)
SSI認定 日本酒ナビゲーター (認定番号 No.9338)
WSET LEVEL1 AWARD IN SAKE (認定番号 No.201039812417)
日本野菜ソムリエ協会認定 パーティースタイリスト
公益社団法人 神奈川県食品衛生協会認定 食品衛生責任者

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ライター紹介

アーティスト
上宮 三佳(かみやみか)

群馬県出身。ぐんまの地酒大使
Piano&Vocalユニット「Sunray in Rain(サンレイ イン レイン)」のVocal、モデル、ライターとして活動中。日本酒好きが高じてユニットオリジナル曲「日本酒のうた ~二つで一つだね~」をリリース。

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きき酒師
野⼝ 万紀⼦

株式会社 5 TOKYO 代表取締役
きき酒師、クリエイティブディレクター。『日本酒 × ファッション・アート・伝統文化」といった、日本文化の新しい楽しみ方をプロデュースしている。

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ミツワネットショップ
店長荒井

ミツワネットショップ店長
有限会社ミツワ酒販 代表取締役
創業以来四十余年、食の安全、美食へのこだわりをモットーに、関東中心に約700軒の小売店様への酒類、食品類の卸業を行っている。