2021.12.20
美人すぎる唎酒師 野口万紀子の日本酒のいろは
第三十八話 家飲みを充実させよう! 選び方編②
前回に引き続き、家飲みがさらに楽しくなるようなお酒選びのコツをご紹介していくシリーズです。
家飲みの良い点はいろいろありますが
・お店で飲むより圧倒的に美味しいお酒が安く飲める
・閉店時間や終電などを気にせずに時間が自由である
など、自由度の高さが魅力です。そのままグデンと寝てしまえる安心感も嬉しいですよね。
「家飲みを充実させよう!選び方編①」では、日本酒を選ぶ際に覚えておくと便利なキーワード、地域による味の違いなどをご紹介してきました。今回は日本酒のラベルに表示されている造り方による違いについて解説していきたいと思います。
日本酒は他のお酒に比べてたくさんの醸造工程があって複雑ですが、まさにこれが日本酒のイメージを難しくしてしまっている原因のひとつとも言えると思います。逆に言えば、これを理解していれば難解そうに見える日本酒選びがグッとわかりやすくなりますし、ツウっぽいセレクトが出来る様になるのです。
酒母造りによる違い
「酛」と呼ばれる酒母は乳酸による酸性の環境の中で酵母を大量に培養したものです。この乳酸を天然の乳酸菌から得るのが生酛系酒母で、乳酸を添加するのが速醸系酒母です。さらに生酛系酒母は「山卸し」の作業の有無で生酛と山廃に分かれます。
酒母
①速醸系酒母
(醸造用乳酸を添加する手法。生酛系酒母に比べて淡麗)
②生酛系酒母
(自然界の乳酸を取り込む手法)
↓
・生酛
(複雑で重厚な酸味と風味。天然の乳酸菌が乳酸以外にもさまざまな成分を生み出すため、複雑な味わいに。乳酸のふうみを感じる)
・山廃
(独特な乳酸の味わい。山おろし作業を行いわないもので、生酛と同じく複雑な味わいになり、独特のまろやかさや乳酸の風味を感じる)
仕込みの違い
仕込みとは酒母に麹、蒸し米、水を加えて、糖化、発酵を進めていく本格的な発酵工程。1日目の初添え、3日目の中添え、4日目の留添えの3回に分けて仕込む、三段仕込みが一般的です。
仕込む回数や原料、容器などが違ってくると、出来上がる日本酒にも違いが生じます。
①仕込む回数の違い
・三段仕込み
最もベーシックな仕込み方法
ほとんどの日本酒で用いる一般的な仕込み方法。1日目に酒母に麹、蒸し米、水を加え、2日目は何もしないで、3日目、4日目にも麹、蒸し米、水を加える。4日間かけるのが一般的です。
・四段仕込み
米の旨みを感じる甘口に
三段仕込みをして発酵が落ち着いた醪に、さらにもう一回、麹や蒸し米、もち米などで仕込む手法。三段仕込みと比べて、発酵によって分解されず醪内に残る糖分が多くなるので甘口の日本酒になります。
②仕込む原料の違い
・貴醸酒
清酒で仕込むと芳醇な甘口に
仕込みの際、酒母に加える麹、蒸し米、水のうち、水の代わりに清酒を使って仕込んだお酒です。トロリと甘いコクのある味わいとなります。留添えで清酒を加える場合が多いです。
・全麹
麹をふんだんに使用して香り豊かな甘口に
通常、日本酒に使用する米のうち、麹が占める割合は20%前後です。残りは蒸し米として仕込むか、蒸し米ではなく、全量を麹で仕込む手法です。栗のような香りと甘味が特徴の日本酒になります。
③仕込む容器の違い
・木桶仕込み
昔ながらの手法でニュアンスを感じるお酒に
ホーローやステンレスのタンクではなく、昔ながらの仕込み容器である木桶を使って仕込んだ日本酒。木桶は管理に手間がかかるため、現在では珍しい存在となっていますが、出来上がる日本酒は、ほのかな木の香りを持つ独特な個性が感じられます。
上槽の違い
醪をしぼって、原酒と酒粕に分ける作業のことを上槽と言います。上槽による味の違いはこの2点です。
①何を使って絞るのか?(上槽の方法)
②絞ったお酒がどんなタイミングで出てきたか?(上槽の段階)
現在では、ヤブタという自動圧縮機を使うことが多いですが、それ以外の場合はラベルに表示されています。
①上槽する方法による違い
・槽搾り(ふねしぼり)
ゆるやかに搾る雑味の少ない味わい
槽と呼ばれる船型の容器に、醪を詰めた酒袋を重ねて並べて、その重み、もしくは圧力をかけて絞る方法。自動圧搾機よりも圧力が弱いので雑味の少ない味わいになります。
・袋吊り(雫搾り)
圧力をかけずに搾るキレイな味わい
醪を袋に詰めて吊るし、自然に落ちてくる雫を集める方法。圧力をかけないので雑味が極限まで抑えられたキレイな味わいになります。
・粗濾し(あらごし)
醪の旨みを感じる濃醇な濁りの味わい
目の粗い布を使って搾るため、醪に含まれる米の固形部分が酒の中に混入したもの。米の味わいをダイレクトに感じるため、濃醇な味わいになります。
②上槽の段階による違い
【搾りはじめ】
↓
↓
・あらばしり(荒走り・新走り)
華やかな香りで、荒々しくフレッシュな味わい
醪を絞るときに最初に出てくるお酒のことを指します。若々しくて華やかな香りと、フレッシュ感のある荒々しい味わいを持つお酒になります。
・中取り(中汲み・中垂れ)
味と香りのバランスに優れた味わい
あらばしりの次に採取するお酒です。味わいのバランスが取れている部分で、鑑評会に出品するお酒は、この中どりの部分から選ばれることが多いです。
・責め(攻め・後取り)
アルコール度数高めで力強く濃醇な味わい
中どりの後、最後に圧力をかけて絞りだす部分です。より多くの成分が醪の中から移動するので、アルコール度数が高く濃醇な味わいになります。
↓
↓
【搾り終わり】
季節の日本酒の違い
いろいろと日本酒を試してみてはいるものの、何を選べばいいのかわからないときには、その季節の『旬』である日本酒を選んでみるのも手です。日本酒に春夏秋冬それぞれの特徴があります。11〜3月は日本酒造りの期間で、4〜10月は熟成期間となっています。
①1〜5月
日本酒が造られる冬から春にかけては、出来立てのフレッシュさを楽しむ季節です。
・うすにごり
うっすらとにごりがあり、あっさりと飲みやすいのが特徴。角のない柔らかな口当たりです。
・新酒
3月ごろまでにできたフレッシュで爽快な荒々しさが感じられるのが特徴。
・しぼりたて
搾ってすぐに出荷された日本酒なので、爽快で爽やかな味わいです。
②6〜8月
・夏酒
6月ごろから店頭に並びます。キーンと冷やすと美味しいです。旨みや発泡感のあるものが多く、ロックでもおすすめ。
・夏吟醸
初夏を迎える頃に出てくるさっぱりとした日本酒。アルコール度数が低く、清涼感とキレがある味わいです。
・みぞれ酒
凍らせて楽しむ凍結酒です。しゃりしゃりとしたシャーベットのような味わいで、口当たりは爽やかです。
③9〜11月
・おりがらみ
おり引き後の沈殿物も一緒に瓶詰めされています。旨みと微発泡が特徴。
・秋上がり
熟成感がうまく表現されている日本酒で、私も毎年出荷を楽しみにしています。
・ひやおろし
一夏寝かせた日本酒です。新酒よりなめらかになっていて、コクが増します。
~最後に~
日本酒の造りは非常に複雑ですが、どれか一つの切り口だけでも把握しておくと、お酒選びのスキルがグッとアップします。ぜひお気に入りの一本を探してみてくださいね。
プロフィール
- 野口 万紀子
- 株式会社 5 TOKYO 代表取締役
きき酒師 / クリエイティブディレクター
東京都目黒区生まれ。女子美術短期大学卒業後、モデル、スカウトにより芸能活動を始め、8年ほどレースクィーン・モデル業を務める。外資系仏ラグジュアリーブランド、融資コンサル会社等での経験を経てた後、ライター業へ転身。日本のおもてなしについて興味を持つようになり、パーティーコーディネートのトータルプロデュースについて学び、きき酒師の資格を取得。2017年、株式会社 5 TOKYOを設立。現在では『日本酒 × ファッション・アート・伝統文化」といった、日本文化の新しい楽しみ方をプロデュースしている。日本酒イベントの企画運営や飲食店における日本酒コーディネート、セミナーや講演会への出演、執筆などを中心に活動中。最近ではTV、ラジオ、雑誌など様々なメディアにも多く出演している。
- <取得資格>
- SSI認定 きき酒師 (認定番号 No.042210)
SSI認定 日本酒ナビゲーター (認定番号 No.9338)
WSET LEVEL1 AWARD IN SAKE (認定番号 No.201039812417)
日本野菜ソムリエ協会認定 パーティースタイリスト
公益社団法人 神奈川県食品衛生協会認定 食品衛生責任者
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