美人すぎる唎酒師 野口万紀子の日本酒のいろは
第三十五話 名古屋城で知った愛知の日本酒

きき酒師
野口 万紀子

先日、名古屋に行ってきました。名古屋といえばひつまぶしや味噌カツ、手羽先、味噌煮込みうどんなどが名物ですよね。日本酒についても、名古屋ならではの濃いめの味付けを引き立ててくれる様なお酒が揃っています。

今回は名古屋城にも足を運び、限定の日本酒を買ってきたので、愛知県の酒蔵や歴史エピソードとともにご紹介したいと思います。



愛知の日本酒造りの歴史

愛知県といえば自動車をはじめ、陶磁器や繊維など様々な伝統産業が盛んですが、日本酒においても長い歴史があるとされています。「日本書記」や「古事記」には熱田の酒造についての記録があるそうで、尾張酒見神社、三河酒見神社については1000年以上もの昔の歴史について書かれています。

江戸時代になると、世の中に愛知県の日本酒が知れ渡ってくる様になりました。お酒好きだった尾張藩主二台目の徳川光友が、積極的に酒造りを推奨したことから、一気に愛知県の酒産業が発展したのです。

木曽川や矢作川などの清流の伏流水、濃尾平野の良質な原料水に加え、酒造りに適したテロワールを生かし、職人の技を尽くして造られた愛知県の日本酒は多くの人に愛されてきました。

当時の出荷先のメインは江戸。愛知は江戸と大阪の中間点に位置することから、尾張の酒は「中国酒」と呼ばれ、兵庫県の灘の酒と二大人気だったと言われています。

愛知県の日本酒といえば「醸し人九平次」や「義侠」「菊鷹」などが有名。一言で言えば、どれもビビッドでインパクトの強いメリハリ型という印象です。これは発酵半島とも呼ばれる愛知の食文化と共存してきたからなのではないでしょうか。


ナンパの台詞「お茶のみに行きませんか?」の由来

異性を誘うとき「お茶飲みに行きませんか?」というのは、なぜか昔からナンパの風習として伝わっていますよね。これは愛知県 尾張の習慣で、人様を宴会にお招きするとき、このような言い方をしていたことに由来しています。実際には、お茶だけではなくお風呂もご招待していた様です。
「今日は風呂をたてたから、入りにきませんか」といった具合にお誘いしていました。

もちろんお風呂に入っていただいて、スッキリしてもらってから、一杯お酒をすすめます。これは江戸時代の初期の頃からあった風習で、これを商売にしていたのが風呂屋です。お風呂上がりの浴衣姿のお客様にお酒も売っていました。お酌は女性がするものでしたので、お風呂屋さんの女性は湯女と呼ばれ、お風呂屋さんはいわば娼屋と同じようなお店となったのです。江戸の元禄(1688〜1704年)ごろまでは、この様なお店があったのですが、その後、規制が入って途絶えました。

しかし、お風呂の酒盛り文化は今でも尾張国甚目村に残っています。前年にお嫁さんをもらった家では、お正月の11日にお風呂をたいて親戚を招き、ひとっぷろ浴びてもらうのです。その後は宴会が開催されます。裕福な家では、村中の人々を招待することもあるそう。3、4件も家を回ってお風呂を入ることもあるのだそうです。それはそれで大変そうですよね(笑)


名古屋城『金シャチ横丁』で買った名古屋の日本酒

2018年に名古屋城にできたお食事スポット『金シャチ横丁』に立ち寄ってみました。尾張徳川家の初代藩主徳川義直公の名を冠したゾーンで、「伝統・正統」をコンセプトに江戸時代の商屋をイメージした木造の和風建築が並びます。名古屋独自の名店や、伝統を受け継いでいる老舗のお店につい目移りしてしまいます。

ちなみにこちらは「鳥開総本店」での特製名古屋コーチン親子丼。濃厚な卵の風味と旨味たっぷりで絶品でした。このトロトロ感がたまらない!

そして私は、入り口近くにある酒屋さん「十代目儀助」で、2つの酒蔵のお酒を購入してきましたのでご紹介します。

東春酒造『太鯱判』

東春酒造の創業は元治2年。名古屋城を建築するための木材を譲り受けた佐藤東兵衛が倉敷水屋の酒蔵を建てたのが始まり。蔵の下からは、地下100メートルのところに木曽川のやわらかい伏流水を汲み上げることができます。

麹室は二つ持っています。表面には麹菌の菌糸が伸びておらず、お米の中心に向かってしっかりと入り込んでいる「突きはぜ麹」と、お米の表面から中まで菌糸が伸びた「総はぜ麹」の2種類です。酒母についてもその都度生成して、キレがあって深みのある山廃と華やかな味と香りの吟醸酒の両方造っているのが特徴。江戸時代から続く酒蔵は、名古屋市史跡散策路に指定されていて、とても趣きがあります。当時の道具などが展示されているので、酒蔵見学の際にはぜひチェックしてみてください。

「十代目儀助」の店内には、おすすめの日本酒がわかりやすく展示されています。テーブルや椅子もあって、気軽に試飲などもできるようになっていました。今回は名古屋城正門の義直ゾーンにある酒屋「十代目儀助」のオリジナルブランドから『太鯱判』という銘柄をセレクトしてみました。この『太鯱判』というブランドは、愛知県のいいモノの認知を広げたいといった思いから立ち上げられたブランドで、いいモノを保証します!といった意味合いがあるのだそう。

太鯱判シリーズは『龍』意外にも『神』『虎』『鷹』などがあって、それぞれ愛知県内の酒蔵 神の井酒造、金虎酒造、山盛酒造が手掛けています。このシリーズが飲めるのは全国でもここだけだそうです!『太鯱判 龍』は名古屋城のシャチホコがデザインされたモダンなラベルです。わずかにハチミツのような香りがして、しっかりとした真のある女の子といった印象のお味です。切れ味良し。少しお燗にしても美味しいと思います。

山盛酒造『タカノユメ ALL NAGOYA うすにごり』

山盛酒造は1887年(明治20年)に江戸時代築造の酒蔵を譲り受けて、現在の「名古屋市緑区大高」で創業されました。土蔵造りの酒蔵と伝統的な酒造りを継承して、酒銘「鷹の夢」は、地元の地名「大高(オオダカ)」になぞらえ、「一 富士、二 鷹、三 なすび」と縁起の良い故事により命名され、お酒のラベルとされています。他にも「古戦場 桶狭間」など緑区に所録のある銘柄も。

今回は、『タカノユメ ALL NAGOYA うすにごり』をセレクト。愛知県旅館組合の公式銘柄に認定されている日本酒です。酒米は名古屋の酒造公的米「夢吟香」、酒母は名古屋西区にある食品工業技術センターで培養した「FIA-3」が使われています。「夢吟香」の特徴は、心白というお米の白い部分が小さく精米歩合を60%以下に精米することが可能。香り豊かな吟醸酒を造るのに適しています。同じく名古屋の酒造公的米「若水」に発生しやすい縞葉枯病(しまはがれびょう)の抵抗性があるので、穂が倒れにくく栽培がしやすいお米なのです。まさに吟醸酒向きの酒米ですね。

ちょうどいい酸味や旨味、わずかな苦味などバランスの取れた日本酒。うすにごりなので、冷蔵庫で冷やして軽く瓶を振ってオリを均一にしてから注ぎます。

今年は、北区の金虎酒造との麹交換による日本酒造りをするといった、大胆な企画もクラウドファウンディングにて成功。麹というのは、その蔵にしか生息しておらず、蔵のオリジナリティを出す最重要ポイントともいえます。それを交換して、新しい日本酒を造るというのはかなり大胆なプロジェクト!

綺麗で柔らかな特徴を持つ金虎と、筋があって酸味や旨味の見せ方が上手いタカノユメ。おなじ名古屋ではありますが、正反対の特徴を持つ2蔵の麹交換は非常に目を引きました。こちらも飲んでみたいなぁ。

新しい価値観を大切にしたいという山盛酒造は、これまでもお酒の出荷時期や状態による変化を楽しんで頂く「カラ―ラベルシリーズ」や、大量生産はできなくても、造りや味わい、シチュエーションなどのコンセプトを変えて、限定出荷する「Conceptシリーズ」など未来の日本酒に対して精力的な酒蔵です。今後もどんなお酒が登場するのか楽しみです。

~最後に~

名古屋の日本酒はメリハリが効いているところがポイント。ここでしか飲めない日本酒や、限定品の日本酒を発見するとつい手に取ってしまいます。定番にはない自由で幅のあるお酒も多く、酒蔵のチャレンジ精神が実現されている商品もたくさんありますので、ぜひ試してみてくださいね。

素敵な日本酒ライフを♡︎
文:野口 万紀子

プロフィール

野口 万紀子
株式会社 5 TOKYO 代表取締役
きき酒師 / クリエイティブディレクター

東京都目黒区生まれ。女子美術短期大学卒業後、モデル、スカウトにより芸能活動を始め、8年ほどレースクィーン・モデル業を務める。外資系仏ラグジュアリーブランド、融資コンサル会社等での経験を経てた後、ライター業へ転身。日本のおもてなしについて興味を持つようになり、パーティーコーディネートのトータルプロデュースについて学び、きき酒師の資格を取得。2017年、株式会社 5 TOKYOを設立。現在では『日本酒 × ファッション・アート・伝統文化」といった、日本文化の新しい楽しみ方をプロデュースしている。日本酒イベントの企画運営や飲食店における日本酒コーディネート、セミナーや講演会への出演、執筆などを中心に活動中。最近ではTV、ラジオ、雑誌など様々なメディアにも多く出演している。

<取得資格>
SSI認定 きき酒師 (認定番号 No.042210)
SSI認定 日本酒ナビゲーター (認定番号 No.9338)
WSET LEVEL1 AWARD IN SAKE (認定番号 No.201039812417)
日本野菜ソムリエ協会認定 パーティースタイリスト
公益社団法人 神奈川県食品衛生協会認定 食品衛生責任者

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ライター紹介

アーティスト
上宮 三佳(かみやみか)

群馬県出身。ぐんまの地酒大使
Piano&Vocalユニット「Sunray in Rain(サンレイ イン レイン)」のVocal、モデル、ライターとして活動中。日本酒好きが高じてユニットオリジナル曲「日本酒のうた ~二つで一つだね~」をリリース。

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きき酒師
野⼝ 万紀⼦

株式会社 5 TOKYO 代表取締役
きき酒師、クリエイティブディレクター。『日本酒 × ファッション・アート・伝統文化」といった、日本文化の新しい楽しみ方をプロデュースしている。

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ミツワネットショップ
店長荒井

ミツワネットショップ店長
有限会社ミツワ酒販 代表取締役
創業以来四十余年、食の安全、美食へのこだわりをモットーに、関東中心に約700軒の小売店様への酒類、食品類の卸業を行っている。